三一音の奇跡

東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(万葉集:柿本人麻呂)

わずか三一音のこの歌は、初めて読んだ時からずっと衝撃だった。
太陽と月。
立つ(昇る)とからぶく(沈む)。
そして、すべての生まれいずる東と、黄泉へ通じる西。

さまざまな対比を盛り込みつつ、「かえり見すれば」という一言が場面に空間的な広がりを与えている。

この歌の主人公は早朝、あたりは見渡す限りのひらけた場所、東から西へと半球をひと思いに振り替える。このダイナミズムな光景の描写。
そして、これから始まる喧騒の前に、全天周のパノラマの中に一人たたずんでいる。

ちなみにこの歌は、軽皇子(後の文武天皇)が、父である草壁皇子を偲んで阿騎野に狩猟に出た際、随行した人麻呂が詠んだものと言われている。

以下は原文(万葉仮名)の表現。

東野炎立所見而反見為者月西渡

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